第14話「風の帰路」
――大国歴21年、早春。
雪が溶け、村のあちこちから土の匂いが漂い始めたバリアルト村。 年始の祭り「雪迎えの宴」から数週間。あの夜の灯火と笑顔が心に残ったまま、人々は静かな日常に戻りつつあった。
だが、あの日の終わりから、ルグラの姿は消えていた。
雪解け

「……今年は、雪解けが早いね」
ミーナは村の外れ、日だまりの野原にしゃがみ込み、顔をほころばせた蕗の薹をじっと見つめていた。

「去年よりも半月は早い。うちの畑もそろそろ土起こし始めなきゃな」
ぼくは隣で鍬を肩にかけ、空を仰いだ。青い空には、うっすらと春の雲が漂っていた。

「……ルグラさん、今どこにいるのかな」
その名を聞いたとき、ぼくの眉がほんのわずかに動いた。

「……手紙の内容がすべてだとは思えない。でも、ぼくたちには信じるしかない」

「うん……でも、やっぱり寂しいよ」
工房の扉は閉ざされたまま。 それでも、村の誰もがその前を通るとき、無意識に歩を緩め、耳を澄ます。 まるで、扉の奥にまだ息づいているものがあると、感じているかのように。

「おかえりって言える日が来るといいね……」
ミーナの声が風に乗り、早春の丘を越えていった。
見慣れた顔
その数日後、旅人ソウジが王都から帰ってきた。 冬を越えた荷馬車には、香辛料や新しい布地、そして見慣れぬ小さな木箱がいくつか。

「ふぅ……やれやれ、王都の空気はどうも性に合わんね」
いつものように飄々とした調子で村の広場に馬車をつけると、子どもたちが駆け寄ってくる。 だが、そんな穏やかなひとときのなか、村の西側、雪解けの小道からゆっくりと誰かが歩いてきた。
「おい、誰か来たぞ!」
少年の声に振り返る大人たち。
そして、皆が息を呑む。
――ルグラだった。
旅装束を身に纏い、背負った荷はわずか。 痩せたその輪郭は、けれど確かな意思と落ち着きを帯びていた。

「……ただいま」
静かに、それだけを言った。
ミーナは言葉を失い、目を見開いたまま。 しかし次の瞬間、泣きそうな顔で走り出す。

「ルグラさんっ……!」
広場には小さなざわめきが広がり、ルグラの周りに村人たちが集まっていく。
ぼくが一歩前に出て、やさしく言葉をかける。

「……帰ってきたんだな」

「……ああ」
ルグラは深く息を吐き、視線をぼくに向ける。

「向こうの村で……どうしてもやり残したことがあった。師匠の墓標と、壊れたガラスの破片。 ようやく……終わらせることができた」

「そうか……」
ぼくはそれ以上、何も問わなかった。 ただ静かに、深く頷いた。
ルグラは目を細め、工房の方へ歩を進める。 古びた扉の前で足を止め、手をかけて開いた。

「……ここが、俺の帰る場所だ」
ミーナは涙をぬぐいながら笑った。

「おかえり……ルグラさん」
ユウが書庫から顔を出し、胸元に抱えていた帳簿をそっと閉じる。

「これでようやく、バリアルト村の“正式な住人”ですね」

「……ああ」
春の風が、再び村に灯りをともすように吹き抜けていった。
風と記憶
その夜。
ルグラの工房には久々に灯が戻った。 淡くゆれる光のなか、彼は再びガラス管を火にかざし、ふうと息を吹き込む。

「……やっぱり、ここがいい」
小さく呟いた言葉が、火の音に混ざって消えていく。
ミーナが工房の隅で椅子に座り、にこにこしながらその様子を見ていた。

「また、何か手伝えることあったら言ってねっ!」

「……じゃあ、吹き口の掃除からだな」

「えっ、そっちから!? ……まあいいや、うんっ!」
笑い声が響いた。
ソウジが工房の外で腕を組み、星空を見上げながら呟いた。

「……戻ってきたか、風のガラス師。やれやれ、これでまた面白くなるな」
星は静かにまたたき、春の夜はやさしく更けていった。
それは、バリアルト村にとって――風と記憶が重なり合う、新たな始まりの夜だった。

大国歴21年
ここにぼくの村《バリアルト》での村づくりが一歩進んだ。
紹介
■ 南方の村《ウィストヒル》

■ 位置
エルデン村から南東へ約十日の旅程。温暖な気候に恵まれた丘陵地帯に位置する村
■ 気候・風土
ウィストヒルは雪の少ない地域で、冬でも地面が凍ることは少ない。温暖湿潤な気候で、春から秋にかけては豊かな緑が広がる。村を囲むように広がる棚田と果樹園が名物
■村の特徴
**「風と水の村」**と呼ばれることもある。これは、地形の関係で穏やかな南風が常に吹き抜け、小川が幾筋にも村を横切っているため。
伝統的な石造りと漆喰壁の住居が立ち並び、屋根には赤茶の瓦が使われている。
音楽と手工芸の村としても知られており、リュートやフルートなどの楽器制作、染織や南方風ガラス工芸が盛ん。
次回 第15話「理と情のすれ違い」
これから村が繁栄していくところをゆっくりですが投稿していこうと考えています。
あと、村の繁栄度は、ぼくのリアルの繁栄度と比例させていますので、気長にお付き合いしていただくとありがたいです。
イラストやストーリはChatGPTを利用しています。
最後に
今回も読んでいただき、ありがとうございます。次の投稿で会いましょう
バイバイ
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには一切関係ありません。